【問】 Aは、BからB所有の建物を賃貸し、特段の定めをすることなく、敷金として50万円をBに交付した。この場合のAのBに対する敷金返還請求権に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

1 賃貸借契約期間中でも、Bの返済能力に客観的な不安が生じた場合は、Aは、賃料支払債務と敷金返還請求権とを対当額にて相殺することができる。

2 敷金返還請求権は、賃貸借契約と不可分であり、Aは、Bの承諾があったとしても、これをAの債権者との間で質権設定契約を締結することができない。

3 賃貸借契約が終了した場合、建物明渡し債務と敷金返還債務とは常に同時履行の関係にあり、Aは、敷金の支払と引換えにのみ建物を明け渡すと主張できる。

4 Bは、Aの、賃貸借契約終了時までの未払賃料については、敷金から控除できるが、契約終了後明渡しまでの期間の賃料相当損害額についても、敷金から控除できる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔問〕 正 解 4

1 誤り。敷金は、賃借人が賃料の支払いその他賃貸借契約上の債務を担保する目的で賃貸人に交付される金銭であるから、賃借人Aから、これを未払い賃料と相殺することはできない(622条の2・2項)。

2 誤り。質権の対象となる債権には将来発生する債権も含まれるから、賃借人は、賃貸人の承諾の有無にかかわらず、建物の明渡し完了前においても、その債権者との間で敷金返還請求権を目的とする質権設定契約を締結することができる(362条)。ただし、質権の設定を受けた債権者が賃貸人に対して質権を主張するには、対抗要件として、賃借人から賃貸人に対する通知又は賃貸人の承諾を要する(364条)。よって、Aは債権者との間で敷金返還請求権について質権設定契約を締結することができる。

3 誤り。敷金返還請求権は、建物賃貸借終了に伴う建物の明渡しを完了した時点で発生する(622条の2・1項1号)ので、賃借人は建物明渡しを先に履行する必要があり、敷金返還請求権とは同時履行の関係にない。

4 正しい。敷金は、賃貸借契約終了による建物の明渡し完了時点までに賃貸借契約に基づいて発生する賃借人の債務を担保するものである(622条の2・1項1号)から、契約終了時から明渡し完了時までに発生する賃借人の債務も控除できる。