意思表示とは

意思とは、たとえばあの不動産を2,000万円で買おうと決意すること。
表示とは、売主に不動産を2,000万円で売ってくれという言葉を発する場合のことです。

 

意思の不存在

意思の不存在とは、意思表示において、意思と表示が一致しないこと。それには3種あります。
(1) 心裡留保(しんりりゅうほ)
(2) 虚偽表示(虚偽表示)
(3) 錯誤(さくご)

 

(1) 心裡留保(93条)

① 売るつもりがないのに売ろうといった場合のように、わざと真意でないこと(ウソや冗談)を表示すること。
② 原則として、表示した通りの効果が与えられる(有効)。あとから冗談だったとの言訳を許さない。例外として、相手方が真意でないことを知っていたり(悪意)、知ることができた場合(善意有過失)は無効となる(93条)。

冗談やウソのように、真意と違うことを自分で知りながらする意思表示のことを心裡留保といいます。
たとえば売主Aが売るつもりがないのに「売ります」とBに言った場合である。Bは、Aがウソを言ったとは通常思わないので、Bを保護するため、Aの意思表示を有効としている。
ただし、Bがその真意を知っていたり(悪意)、又は不注意(過失)によって知らなかった場合(善意有過失)は、特にBを保護する必要がないので、無効としている。

※ 善意とは、ある事情を知らないこと、又は真実でないことを誤信すること。
善意有過失とは、十分に気をつけなかったため知らなかった場合。
善意無過失とは、十分に気をつけたが知らなかった場合。
悪意とは、ある事情を知っている場合です。

● 心裡留保が無効(93条但書)とされる場合に、その無効をもって善意の第三者に対抗することはできないと解されています(94条2項の類推解釈)。

 

(2) 虚偽表示(94条1項)

債権者による差押えを免れるために、売買の意思が無いのに、当事者が示し合わせて虚偽の表示をすること。
① 相手方と通じてした虚偽の意思表示は無効とする(94条1項)。
② ただし、善意の第三者に対しては、この意思表示の無効を対抗できない(94条2項)。
たとえば上の例でBが「自分の土地だ」と称して第三者Cに売却してしまった場合、CがAB間の虚偽表示を知らなかった(善意)ときは、AはCに対して、土地の所有権を対抗できません(土地の返還を求めることはできないということ)。なお、Cが悪意の場合は、AはCに対して土地の所有権を対抗できる。ただし、悪意のCが更に善意のDに譲渡した場合、DはAに対して所有権を対抗できます(転得者Dが善意であれば保護される)(判例)。

たとえば、債権者の差押(強制執行)を免れようとして、売買の意思がないのに自己所有の土地を相手方Bと通じ合ってする仮装、架空の売買契約を虚偽表示又は通謀虚偽表示という。

※仮装譲受人Bが無権利者であることを知らずに、Bからその土地を買い受けた善意の第三者Cに対しては、売主であるAも、売主Aの債権者も対抗することができません。Cは有効に所有権を取得する。なお、この場合のCは善意であれば保護される。過失があっても、登記を取得していなくても土地の所有権をAに対抗できる。

(3) 錯誤(95条)

分譲マンションの506号室を買うつもりで、605号室の買受けの申込をした場合のように、表示と内心の意思との間に不一致があり、このことを表意者自身(勘違いした人)、気付いていなかった場合に錯誤があるという。

① 法律行為の要素に錯誤があれば、その意思表示は無効である。
※ 勘違いがささいな場合にも表意者を保護するのは行き過ぎですから取引の重要な部分に錯誤がある場合(その錯誤がなければ、契約をしなかっただろうと思われるような重要な部分に勘違いがあった場合)にのみ、表意者は無効を主張できるとしている。この重要な部分に錯誤があることを「要素の錯誤」という。② 「要素の錯誤」がある場合でも、表意者に「重大な過失」があるときは、無効の主張はできません。
※ 錯誤の無効主張できるのは、表意者本人のみである。したがって、表意者に重大な過失があって無効主張できないときは、相手方や第三者も無効主張できないのです。

③ 無効の主張権者
a.無効は原則として、誰からでも主張できるが、錯誤無効の主張は表意者本人のみである。相手方・第三者からの無効は認められない(判例)。

b.第三者が表意者に対する債権を保全する必要がある場合に、表意者がその意思表示に関し錯誤のあることを認めているときは、表意者自らは意思表示の無効を主張する意思がなくても、第三者は、意思表示の無効を主張することができる(判例)。

c.表意者に重大な過失があって無効主張ができないときは、相手方や第三者も無効を主張することはできない。

④ 動機の錯誤
たとえば、将来、近くに鉄道が敷設(ふせつ)されると思って土地を買う契約を締結したが、そのような予定がまったくなかった場合である。
原則として、動機の錯誤は無効にならない。ただし、動機の錯誤が相手方に表示されている場合や、表示されていなくても相手方が表意者の動機を知っている場合には、動機の錯誤が、その法律行為の要素となっていれば、その意思表示は無効として扱われる。

⑤ 錯誤による意思表示の無効は、第三者の善意、悪意に関係なく認められる。