未完成物件や完成物件の売買において、買主が物件の引渡し前に申込金や手付金、中間金等を売主に支払うことがありますが、買主が物件の引渡しを受ける前に売主の宅建業者が倒産した場合には、物件の引渡しも受けられず支払った金銭も返してもらえないことになります。これでは買主が大きな損害を被ることになります。そこで、このような事態が生じた場合でも、業者は買主が支払った申込金や手付金、中間金等(手付金等)を返還できるように銀行等と手付金等保全措置を講じておきなさいというものです
※ 業者間の取引には適用しない。

(1) 保全措置の対象となる手付金等
 手付金等とは、契約締結から物件引渡し前までに支払われる金銭で、売買代金に充当されるものをいいます。
※ 実務的には、申込金、手付金、内金、中間金等の名目で授受される。

(2) 売主である業者は、契約の締結から引渡し前までに受領する手付金等については、原則として保全措置を講じた後でなければ手付金等を受領してはならない

(3) (例外)次のイ.ロのいずれかに該当する場合は保全措置を講じる必要はない
イ.買主が、売買される物件の所有権の登記をしたとき
ロ.すでに受領した分を加えて、受領しようとする手付金等の額が、
① 完成物件の場合は、代金の5%以下でかつ1,000万円以下であるとき
② 完成物件の場合は、代金の10%以下でかつ1,000万円以下であるとき

(4) 保全措置は、次のいずれかの方法による。

a.未完成物件の場合
 ① 銀行等による保証(保証委託契約)
 ② 保険事業者による保証保険(保証保険契約)

b.完成物件の場合
 ① 銀行等による保証(保証委託契約)
 ② 保険事業者による保証保険(保証保険契約)
 ③ 指定保管機関による保管(手付金等寄託契約)
※ 手付金等の全額が保全される。

● 保証委託契約による手付金等の保全措置
(イ)保証委託契約…宅地建物取引業者が一定の金融機関又は指定保証機関との間で締結する契約であり、宅地建物取引業者が手付金等を返還すべき事情が生じたのに手付金等の返還ができない場合に、その返還債務を契約当事者が連帯して保証することを内容とするものである。
(ロ)保証委託契約による手付金等の保全のしくみ…宅地建物取引業者が金融機関・指定保証機関との間で保証委託契約を結んで保証料を支払い、金融機関又は指定保証機関は買主に手付金等の返還債務を連帯して保証することを約する書面保証書)を交付し、その上で宅地建物取引業者は買主から手付金等を受領する。こうしておけば、宅地建物取引業者の倒産等で宅地又は建物を取得できずに手付金等の返還を受けるような事態が生じたのに手付金等の返済を受けることができないときは、買主は、宅地建物取引業者又は手付金等の返還を保証した一定の金融機関若しくは指定保証機関のどちらかから手付金等の返還を受けることができる。
(ハ)保証委託契約の要件…保証委託契約は、次の(a)(b)の内容を有するものでなければならない(同法41条2項)。
(a) 保証対象…手付金等の返還債務の全部であること
(b) 保証期間…少なくとも宅地又は建物の引渡しまでに生じたものであること

● 保証保険契約による手付金等の保全措置
(イ)保証保険契約…宅地建物取引業者保険事業者との間で締結する契約であり、宅地建物取引業者が手付金等を返還すべき事情が生じたのに手付金等の返還ができない場合に、保険事業者が買主に手付金等相当額の保険金を支払う旨を内容とするものである。
(ロ)保証保険契約による手付金等の保全のしくみ…宅地建物取引業者が保険事業者と保証保険契約を結んで保険料を支払い、保険事業者は買主に保険証券又はこれに代わるべき書面交付し、その上で宅地建物取引業者は買主から手付金等を受領する。こうしておけば、宅地建物取引業者の倒産等で宅地又は建物を取得できずに手付金等の返還を受けるような事態が生じたのに手付金等の返還を受けることができないときは、買主は保険事業者から手付金等相当額の保険金の支払いを受けることができる
(ハ)保証保険契約の要件(同法41条3項)
(a) 保険金額…受領しようとする手付金等の額(受領済分を含む)に相当する金額であること
(b) 保険期間…少なくとも保険契約成立時から宅地又は建物の引渡しまでの期間であること

● 手付金等寄託契約による手付金等の保全措置は、次の①及び②の措置が講じられたものでなければならない(同法41条の2第1項)。

① 宅地建物取引業者が指定保管機関(手付金等保管事業の承認を受けた宅地建物取引業保証協会を含む。以下同じ)との間において、宅地建物取引業者が自己に代理してその指定保管機関に手付金等を受領させるとともに、その指定保管機関が、宅地建物取引業者が受領した手付金等の額に相当する額の金銭を保管することを約する契約手付金等寄託契約)を締結し、かつ、その手付金等寄託契約を証する書面を買主に交付すること。

② 宅地建物取引業者が買主との間において、買主が宅地建物取引業者に対して有することとなる手付金等の返還を目的とする債権についての質権設定契約を締結し、かつ、質権設定契約を証する書面を買主に交付し、及びその質権の設定を確定日付のある証書をもって指定保管機関に通知すること。
 上記①の手付金等寄託契約は、(a)保管される金額が、宅地建物取引業者が受領する手付金等の金額に相当する金額であること、(b)保管機関が宅地建物取引業者に代理して手付金等を受領したときからその手付金等に係る宅地又は建物の引渡しまでの期間であることの要件に適合するものでなければならず(同法41条の2第2項)、また、上記②の質権設定契約は、設定される質権の存続期間が、少なくともその質権が設定されたときから宅地建物取引業者が受領した手付金等に係る宅地又は建物の引渡しまでの期間であるものでなければならない(同41条の2第3項)。

とことん覚える!重要度A
(5) 保全措置が必要となる場合

a.未完成物件の場合(工事完了前の物件)
 受領する手付金等の額(すでに受領した手付金等があればそれを加えた額)が
① 代金(消費税相当額を含む)の100分の5(5%)を超える場合
② 代金(消費税相当額を含む)の5%を超えていない場合でも、その額が1,000万円を超える場合
※ ①②のいずれかに該当する場合は保全措置が必要です。もちろん、保全措置を講じた後でなければ手付金等を受領できません

b.完成物件の場合(工事完了後の物件)
 受領する手付金等の額(すでに受領した手付金等があればそれを加えた額)が
① 代金(消費税相当額を含む)の10分の1(10%)を超える場合
② 代金(消費税相当額を含む)の10%を超えていなくてもその額が1,000万円を超える場合

※ ①②のいずれかに該当する場合は保全措置が必要です。もちろん、保全措置を講じた後でなければ手付金等を受領できません。

● 保全措置を必要とする場合・しない場合

手付金等の保全措置が必要な場合 手付金等の保全措置が不要の場合
工事完了前(未完成物件) (手付金等の額が)代金の100分の5を超えるまたは1,000万円を超える (手付金等の額が)代金の100分の5以下かつ1,000万円以下
工事完了後(完成物件・中古物件) (手付金等の額が)代金の10分の1を超えるまたは1,000万円を超える (手付金等の額が)代金の10分の1以下かつ1,000万円以下

手付金等の額にかかわらず不要の場合
・買主への所有権移転登記がなされたとき。
・または買主が所有権保存登記をしたとき。

※ 手付金等の保全措置を講じなければならないのに業者が保全措置を講じないときは、買主は手付金等を支払わなくてよい