【問】 Aを売主、Bを買主とする土地の売買契約が締結され、Bは代金4,000万円のうち、500万円を手付として支払ったが、手付については別段の定めはなされていない。

この場合に関する次の記述のうち、民法の規定及び判例によれば、正しいものはどれか。

1 AはBが履行に着手する前であれば、手付金500万円及びその受領のときからの利息を返還して、その売買契約を解除することができる。

2 Bが履行期に履行の提供をしたにもかかわらず、Aが履行期を過ぎても土地を引き渡さないので、Bが売買契約を解除する場合、Bはすでに支払った500万円とその利息の返還とともに損害賠償の請求をすることができる。

3 Bが手付を放棄して契約を解除したことによって、Aに損害が生じた場合、AはBに対して、その損害の賠償を請求することができる。

4 AB間の売買契約が、Dの所有する不動産の売買契約であった場合において、AがDから不動産を購入し、登記名義をA名義とした場合でも、Bへの引渡し又は登記名義のB名義への移転を行っていない段階では、Bは手付を放棄して契約を解除することができる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔問〕 正 解 2

1  誤り。手付について別段の定めがないときは、解約手付と推定されるので、手付に関して特別な定めがない以上、本問の手付は解約手付として扱われることになる。また、売主Aは、既に受領した手付の倍額を現実に提供しなければ手付解除することができず、その場合、受領時からの利息も返還しなければならない(557条1項、545条2項)。

2 正しい。債務不履行により契約が解除された場合、買主は手付の返還を請求するとともに、債務不履行が債務者の責に帰すべき事由に基づく場合には、さらに損害賠償を請求することもできる(545条2・4項)。

3 誤り。解約手付による契約解除の場合には、損害賠償の請求はできない(557条2項)。

4 誤り。解約手付による契約解除は、相手方が履行に着手するまでにする必要がある。

この「履行に着手」とは、債務の内容たる給付の実行に着手すること、すなわち、客観的に外部から認識し得るような形で履行行為の一部をなし又は履行の提供をするために欠くことのできない前提行為をした場合を指すとされている(判例)。

本肢の場合、売主Aの行った目的不動産の購入及び登記名義の取得は、買主Bに対する債務の履行(目的不動産の引渡し)に欠くことのできない前提行為といえ、売主Aは「履行に着手」に該当する。従って、買主Bは手付による解除ができない(557条1項)。