【問】 建物の賃借人Aは、賃貸人Bに対して有している建物賃貸借契約上の敷金返還請求権につき、Cに対するAの金銭債務の担保として質権を設定することとし、Bの同意を得た。この場合、民法の規定及び判例によれば、次の記述のうち正しいものはどれか。

1 Aは、建物賃貸借契約が終了し、AからBに対する建物の明渡しが完了した後でなければ、敷金返還請求権について質権を設定することはできない。

2 Cが質権の設定を受けた場合、確定日付のある証書によるAからBへの通知又はBの承諾がないときでも、Cは、AB間の建物賃貸借契約証書及びAのBに対する敷金預託を証する書面の交付を受けている限り、その質権の設定をAの他の債権者に対抗することができる。

3 Cが質権の設定を受けた後、質権の実行かつ敷金の返還請求ができることとなった場合、Cは、Aの承諾を得ることなく、敷金返還請求権に基づきBから直接取立てを行うことができる。

4 Cが、質権設定を受けた後その実行ができることとなった場合で、Bに対し質権を実行する旨の通知をしたとき、Bはその通知受領後Aの明渡し完了前に発生する賃料相当損害金については敷金から充当することができなくなる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【解答】 正 解 3

1 誤り。敷金返還請求権は、賃貸借契約終了後家屋明渡し完了の時においてそれまでに生じた賃借人の債務を控除し、なお残額がある場合に、その残額につき具体的に発生するものと解されている(最判昭48.2.2)。しかし、債権質の対象は、具体的に発生していない将来の債権や条件付債権でもよいので、明渡し完了前でも、敷金返還請求権に質権を設定できる。

2 誤り。債権の質入れにおいて、もしも証書があってそれを引き渡しても、そのことは債権質入れの公示手段となるわけでもなく、対抗要件ともならない。第三者への対抗要件は、あくまで確定日付ある証書によるAからBへの通知またはBの承諾である(民法364条1項、467条2項)。

3 正しい。質権者は質権の目的たる債権を直接取り立てることができる(367条1項)。

4 誤り。敷金は、本来建物の明渡し完了前に発生する損害を担保するためのものであるから、質権実行の通知が単にあっただけなら、賃料相当損害金について敷金から充当することができる。