【問】 建物の賃貸借に関する次の記述のうち、民法及び借地借家法の規定並びに判例によれば、正しいものはどれか。

1 賃借人が家賃を支払おうとしても、賃貸人がこれを受領せず、以後の家賃の受領を明確に拒んだ場合においても、賃借人は、家賃を供託しないと、履行遅滞になる。

2 一定の期間賃貸人が家賃の増額を行わない旨の特約がある場合、地価の上昇等の理由により家賃が不相当となったときには、賃貸人は当該期間中であっても家賃の増額請求ができる。

3 居住の用に供する建物の賃借人が相続人なくして死亡した場合、その当時婚姻の届出はしていないが事実上賃借人と夫婦同様の関係にあった同居者は、賃貸人が賃借人の死亡の事実を知った日から1ヵ月以内に異議を述べなかったときに限り、賃借人の賃借権を承継することができる。

4 賃借人が家賃を支払おうとしても、賃貸人が家賃の値上げを主張してこれを受領せず、以後の家賃の受領を明確に拒んだ場合において、賃借人が相当と認める額の家賃の支払を準備して受領を催告した上で供託したときは、賃貸人は、家賃不払いを理由に家屋の賃貸借契約を解除することはできない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〔問〕 正 解 4

1 誤り。債務者が弁済の提供をした場合、それのみでは債務自体は消滅しないが、履行遅滞とはならず、それに基づく責任(遅延損害金の請求、契約の解除等)は免れる(民法492条)。また、この場合の弁済の提供とは、債務の本旨に従って現実に行う(現実の提供)のが原則であるが、債権者があらかじめ受領を拒んでいるとき等には、弁済の準備をしたことを通知してその受領の催告をすること(口頭の提供)で足りる(民法493条)。本肢の場合、賃借人は供託をしなければ賃料債務自体は消滅しないが、弁済の提供をしていれば、遅行遅滞となることはない。

2 誤り。「一定期間、賃貸人は家賃の増額を行わない」旨の特約がある場合、その特約は有効となる(32条1項但書)から、特約で決められた期間中は、理由の如何にかかわらず、賃貸人は増額請求できない。

3 誤り。居住用建物の借家人が相続人なくして死亡した場合、婚姻届または縁組の届出はしていないが、事実上、借家人と夫婦または養親子と同様の関係にあった同居者は、何らの意思表示等をしなくても自動的に借家人の権利義務を承継する。ただし、その同居者が借家人の死亡の事実を知ったときから1ヵ月以内に、賃貸人に対して反対の意思表示(権利義務を承継しない旨の意思表示)をしたときは、承継しないことになる(36条1項)。

4 正しい。賃貸人が家賃増額請求権を行使し、家賃額について合意が得られない場合、家賃の額を決定する裁判確定までは、家賃増額の請求を受けた賃借人が相当と認める額を支払えばよい(32条2項)。本肢の賃借人は、自身が相当と認める金額での弁済を提供(口頭の提供・上記肢1解説参照)しており、債務不履行とはならない(民法492条)ので、債権者は、家賃の不払いを理由とした契約の解除はできない。

尚、賃借人が家賃の支払について、弁済の提供をしたにもかかわらず、賃貸人が受領を拒む場合には、賃借人は、家賃を供託することにより、家賃の支払債務を消滅させることができる(民法494条1項1号)。